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AMOUR - Essais

もっともっとたくさん 
Erika (エリカ)

ある朝のこと。

行きつけのカフェの席につき、一日の最初のコーヒーを注文した。それといつものようにクロワッサンも。
ほどなく、隣のテーブルに若い女性がやってきた。25歳くらいの、とてもエレガントな感じの人。
でもどこか悲しげな雰囲気。
目が合うと、彼女は「こんにちは」と言うように、ちょっとうなずいて挨拶した。
私は日ごろから、カフェでまわりの席の人たちとよく話をする。
今日の社会では人々は見知らぬ同士ではあまり話をしない。でもそれは不自然だと思う。
そこで隣のテーブルの彼女に、「ボンジュール」と親しみを込めて言ってみた。
すぐさま彼女も「ボンジュール」と返してくれた。その発音には、明らかにドイツかスイスふうのなまりがあった。
彼女が私のテーブルの上のクロワッサンにちらと目をやったので、彼女にも勧めた。

「とってもおいしいですよ」

すると女性は、フランス語があまり上手くないんです、すみません、と言う。
それではあまり意見交換もできないし、会話もはずまないかな、とあきらめかけた瞬間、まるで私の心を読んだかのように、彼女は言った。

「でもゆっくりと簡潔に話してくだされば、理解できますよ。フランス語の練習にもなりますし」

まったく彼女の言うとおり。言葉がうまく話せなくても意見交換はできるはず。
彼女の名前はルツ。ミュンヘンから来ていた。
私たちはまずドイツとフランスの関係についてあれこれと話し始めた。

ドイツ語なまりが、彼女の魅力をさらにアップさせている。
言葉を探しているときの表情がとても可愛らしい。
適当にあしらわないで正確に意見を言おうとする態度にとても好感が持てる。
私は彼女自身についてもっと知りたくなった。

パリには何をしに来ているのだろう?

「仕事でいらしたの?」
「いいえ。実はボーイフレンドにふられたんです。昨日は一日中泣いて過ごしました。それで気晴らしにパリにでも行ってみようと思って、夜行列車に飛び乗って来てしまいました」

なるほど、それで悲しそうだったんだ。
私も2年前、同じような状況でイタリアに旅行したっけ。
でも私のことはともかく、今悲しんでいる彼女の状況が問題なので、こう言ってみた。

「別れはつらいですね」
「というか、つらいのは男性との生活そのものです。男はわがまま過ぎる。その時々の気まぐれで女を思い通りにしようとする。彼らの言うことを聞かなければ、それでお終い」
「そうね、男にとって生活はいたって単純明快。一方に仕事があり、もう一方に私生活がある。私生活では女が彼らに尽くすものだと思っている。でも女にだって生活があり人生があるのを忘れているのよね」
「というか、もっと単純な話だと思う。“尽くす”というのはつまりセックスすること。彼らの望むときに、望むように。すべてはいたって単純な話。女を裸にして欲望を満たしたら、あとはリラックスするだけ。女たちがもっともっとたくさんのことを必要としていることを、全然わかってないのよ」

別れのショックのせいだろう、たしかに彼女の言葉にはかなりトゲがあった。
でも基本的に私も彼女の言うことには賛成だ。そういう男がたくさんいるではないか。

「そのとおりね。でも、自分の要求をどうやったら男に理解させられるのか、女はちゃんとわかっているかしら」

この私の質問に、ルツは少し不意をつかれたようだった。
しばらく考えてから、彼女は言った。

「たしかにおっしゃるとおり、わかっていないと思う。だからつらくなるのね」
「男たちの単純すぎる行動パターンについては私も同意見。でも女たちにも責任があると思う。もっと言いたいことをはっきり伝えていれば、男たちももっと気をつかってくれるのでは」
「そうね、でももう何百年も前から何も変わっていないでしょう。女性たちがもっと多くのことを望んでいることを、男性たちはとっくに理解していてもよさそうなものだわ」
「ところが、男と女が自由に性について話すことができるようになったのは、比較的最近のことなのよ」

それどころか、今でも自由に対等に話すことができない国は多い。フランス、ドイツ、イギリス、アメリカの一部の州、そして多分日本などでは自由に話しているかもしれないけれど、中東の国などでは無理な話。

「なるほどそのとおりね。でも、そのドイツでさえ、男性はもっと女性の立場に立って考えるべきだと思う」
「このままでは何も変わらないわね。もっと男を教育してやらないと!」

私がそう言うと、ルツは大笑いした。ルツが笑ってくれた。彼女の表情から悲しみが消えていくのがわかる。
私はうれしかった。
あっという間に時間が経ち、時計を見ると仕事に行く時間になっていた。
そこで、もし今晩まだパリにいるのなら、と夕食に誘ってみた。

「一緒に食事でもしながら、世の中を思いどおりに作り直しましょうよ」

ルツがまた笑った。

エリカ(Erika)

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